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東京幕張メッセで行われた日本基礎老化学会で、私が発表したこと。

吸啜、嚥下訓練が高齢者の、舌圧と認知機能に与える影響。

【背景】口腔嚥下機能を維持することは、誤嚥性肺炎の予防をはじめ、心身の健康を維持するうえで重要である。舌、口腔周囲筋群を使って吸引と嚥下を行う高齢者向けのリハビリ用具「口腔嚥下機能訓練器具」は、舌圧を改善し、高齢者の嚥下訓練の低下を防ぐ可能性がある。疫学調査では口腔嚥下機能低下と認知機能低下とが関連すること、動物モデルでは口腔周囲筋活動を誘発する咀嚼野刺激が、認知機能に欠かせないマイネルト基底核を賦活し大脳皮質血流増加をもたらすことが示されている。

※2019年堀田晴美大会会長、プレスリリース「咀嚼に伴う脳血流量増加の神経メカニズムを解明」より。

そこで本研究では、嚥下訓練器具の使用が高齢者の舌圧と認知機能に及ぼす影響を調べることを目的とした。

【方法】研究期間を通して嚥下訓練を継続できた38名(平均年齢86歳)を対象とした。3ヶ月間の吸飲訓練(吸引を1日1回、週5回)を、3ヶ月間の休止期間を挟んで2回行った。舌圧測定は月一度体調をみておこなった。

認知機能はSDRテストを用いて各訓練後に評価した。

【結果】訓練実施前の舌圧は13.4±11.7Kpaであったが、訓練3ヶ月目には、1回目21.7±11.5Kpa、2回目22.8Kpa±11.1Kpaと有意に上昇した。

1回目と2回目の間に有意差はなかった。

CDR−SBは、1回目8.6±4.6から2回目7.9±4.7に6ヶ月間で0.7ポイント有意に低下した。(CDR−SBはスコアが高いほど重症)

【結論、考察】「嚥下訓練具」の使用によって上昇した舌圧は、3ヶ月の休止期間を挟んでも訓練再開により高いじょうたで維持された。訓練の継続によって認知機能に改善したことは、高齢者の、嚥下機能と認知機能との密接な関係を裏付け、吸啜訓練の有用性を示唆する。

笠原直樹(歯科医師、特養経営者)