歯の数や口の働きの低下が認知症のきっかけに
「最近は歯の本数だけでなく、かみ砕いてのみ込んだり唾液を出すなど口の中の機能の衰えが、認知能力の低下につながるという研究が多く発表されています」
「私たちは何かを食べる時、単に歯でかむだけではなく、ほお、舌、唇などをリズミカルに動かして適度な硬さに丸めてのみ込んでいます。かみ砕く時には唾液も大きな役割を果たします。これらと、呼吸や発音も含めた口の機能が衰えると、認知機能が低下することがわかってきています。特に舌の力と動きがMCI(軽度認知障害:認知症の前段階)の発症に影響を与えているという研究報告があります」
また、認知症が進行すると、食べものに興味を示さなくなる人がいます。これにはいくつかの原因があります。
- 運動不足で食欲が出ない
運動量が減れば、食欲はわきません。普段から「きちんと座る、立つ、歩く、散歩に行く」などを習慣にすることが大切です。 - 時間の感覚がなく、食事の時間であることがわからない
認知症の人は時間の感覚が鈍くなっています。1日の流れが把握しづらく、食事の時間になっても食べることに集中できない人もいます。食事の時には「これからお昼ごはんの時間ですよ」などと声をかけるといいでしょう。 - 嗅覚(きゅうかく)が鈍くなる
認知症になると、匂いに鈍感になることがあります。お皿を近づけて匂いをかいでもらったり、カレーなどの香辛料を使った料理を出したり工夫をしましょう。 - 視覚が弱くなる
目が悪くなると色の区別がつきにくくなります。白い器に白いおかゆを入れると、何が入っているのかわかりません。また、柄のある器は、虫などに見えることがあります。茶色やブルーなどの単色の器にするといいでしょう。 - 食事時間が楽しくない
認知症は記憶や知覚、判断などの認知機能が衰えますが、快・不快といった情動の能力は衰えないといわれます。食事時間を楽しくすれば食欲も増します。家族で会話をするなど、楽しい雰囲気を演出しましょう。
「やせてきて栄養が足りない時は、チューブを使った栄養摂取やミキサー食に切り替えることがあります。しかし、元気になってきたりよく話すようになったりしたら、普通食に戻すことを忘れないでください。まず、軟らかいおせんべいを食べてもらい、それができたら卵料理などの軟らかい料理、具を小さくした煮物などに切り替え、だんだんと普通食に戻していくといいでしょう」
なかまぁる抜粋
上田貴之(うえだ・たかゆき)歯科医師/戸原玄(とはら・はるか)歯科医師 解説