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前回に引き続き「あなたの老いは舌から始まる」の著者 菊谷武先生の(おわりに)の部分をご紹介します。

高齢化によって人工構成が大きく変わり、65歳以上の高齢者が人口の27.3%に達しています。そして、高齢者は医療を受ける機会が多いことから、医療費の高騰が叫ばれています。受診患者数は、外来では、75歳から79歳がピークで、さらに、80歳以上では、入院患者数がピークを迎えます。

これに対し、歯科外来数は60歳代をピークに大きく減少していきます。

果たして高齢になると、口腔の問題は解消され、歯科受診をしなくてもよくなるのでしょうか?

歯科と医科で受信患者数が違った動きをするのは、歯科サービスは外来診療を中心とし、比較的元気に外来診療室に訪れることが可能な、ある意味限られた人へ提供を行っているにすぎないためと考えられます。

一方で、歯科サービスから見放された在宅療養を行っている患者の口腔内は、荒れ果て、天然歯や人工の歯で補っている補綴物(ほてつぶつ)が口腔内細菌の温床になっているのが実情です。

日本人は

女性で12年、男性で8~9年もの長い間、『不健康寿命』と呼ばれる時期を過ごさなければなりません。

この期間は、いわば、歯科医院への通院不可能な時期とも言え、この期間の口の中をどう支えていくのかは、歯科にとって喫緊の課題だと思っています。

多くの講演依頼をいただく中で、最近、「口の終い方」と題して、少し過激な講演をする機会をあえて増やしています。

加齢に伴って身体機能や認知機能の低下した患者さんを外来診療や訪問診療で拝見する中、さまざまな危惧が頭に浮かぶからです。

口の健康が全身の健康に有用であることは、読者の皆様にもご理解いただけたかと思います。

本書のテーマが示すように、口腔の機能の要である舌の機能が衰えたとき、口は様相を一変させます。

口腔内は細菌の温床と化し、虫歯や歯周病の発症ばかりか、誤嚥性肺炎の引き金も引いてしまうのです。

『あなたの老いは舌から始まる』というタイトルが頭に浮かんだのは、そのためです。

いつまでも、おいしく食べることを支える口でありたいと思います。

本書が中年期から高齢期における口の管理方法の一助になれば幸いです。

2018年 9月

日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長 菊谷武