咀嚼と嚥下(小さなごま粒をより分けることが出来る舌の鋭さ)
自分の舌が動いているところを見ることはまずありませんから、私達は舌の動きをあまり意識しません。
しかし、舌は巧みに形を変えながら、ものすごい働きをしているのです。
例えば食事のとき、舌は食べ物を口の中に引き込んで、食感や温度、味を感じたり、噛むために器用に口の中で取り回したり、飲み込むために咀嚼の終わった食べ物を舌の上でまとめたりと、大忙しで働いています。
ゴックンと飲み込むときにも、舌の動きが重要です。
舌が口蓋(上あご)に向かって押し上がり、口の中の圧を高めて、舌根部で食べ物をのどに送り込みます。
また、舌は驚くほど感覚の鋭い器官です。
例えば髪の毛が1本でも口の中へ入れば、舌はすぐさま感知して、より分けます。また、食べ物にかかっているごま粒を感知し、より分けてカチッと噛んで風味を楽しむなんていうことも、舌の感覚が鋭く、動きが巧みだからこそ出来るのです。
舌はなぜ、ここまで発達したのでしょうか。
咀嚼や嚥下というのは、絶妙なタイミングで行われています。例えるなら、熟練した餅つき職人たちが、杵でつく動作ともちを返す動作をリズミカルに繰り返しているようなもの。それが、食事のたびに、私達の口やのどで行われています。 そしてたくさんの神経が集中する舌は、常に脳とさまざまな情報をやり取りしているのです。舌は連動するさまざまな器官の中心的役割を果たすために、動きが巧みになり、感覚が研ぎ澄まされたのでしょう。
また、昔は清潔な混じりっけのない食べ物ばかりてはなく、砂粒が交じったものを口に入れざるをえないこともあったでしょう。そのため、食べ物に交じった異物をより分ける能力が発達したともいえます。
菊谷武先生著書より