私は(西山耕一郎先生)、飲み込み力の低下は、これからの高齢化社会においては誰にとっても関係してくる問題だと捉えています
カギを握るのは「のど仏を上下させる筋肉だった」
ところで、飲み込み力が落ちてくると「見た目」にも明らかなサインが現れることをみなさんはご存じでしょうか?
じつは、「のど仏」の位置が下がってくるのです。
お年寄りにはのど仏の位置がだいぶ下に来ている人が多いものですよね。
あれは、もともと下がっていたのではありません。若い頃はかなり上の方にあったのが、歳を重ね、のどの力が衰えるとともに少しずつ下がっていき、ああいう位置になってしまったのです。
のど仏が首の真ん中より下がっていたら、注意が必要です。
ちなみに「のど仏」は正式には「甲状軟骨の喉頭隆起」といい、男性のように出っ張った突起部分こそありませんが、女性にもちゃんと備わっています。
どうして、のど仏が下がってくるのか。それは のど仏を吊り下げている筋肉や腱が衰えてくるからなのです。
ここは大事なところなので詳しく説明しておくことにしましょう。
みなさんは、ごっくんと食べ物を飲み込むときに、のど仏が上下するのを感じますよね。試しに一度、唾液をごっくんと飲み込んで確かめてみてください。
この動きは、喉頭挙上筋と呼ばれる筋肉がのど仏を引っ張り上げたり下げたりすることで成立しています。
そもそも、のどにおいて「空気」と「食べ物」を仕分けする役割を担っているのが「喉頭という場所であり、その喉頭の前に位置するのが「のど仏」です。気管と食道の分岐点には喉頭蓋という「のどのフタ」があるのですが、このフタは、呼吸をしたり声を出したりしているときに開いて、食べ物を飲み込むときには瞬時にフタを倒れ込ませて気管の入り口を塞ぎます。そうすることによって、食べ物が気管に入り込まないようにしているわけですね。
また、このフタを塞ぐ際、喉頭は全体に前上方へせり上がります。食べ物を飲み込むと同時にぐっと上へ移動してフタを閉めるという動きをしているのです。
このとき喉頭を引っ張り上げているのが、のど仏の筋肉である喉頭挙上筋群というわけ。
ところが、歳をとると、こののど仏の筋肉がすこしずつ衰えてくるのです。すると、喉頭を上げる力も下がってくるし、喉頭の位置も全体に下がってきます。また、筋肉の支える力が落ちてくると、外から見ても、のど仏の位置が下に
来ているのがわかるようになります。そして、そのように喉頭の位置が下ってきてしまうと、のどのフタが閉まりにくくなり、誤嚥が起きやすくなるのです。
フタがうまく閉まらなくなると、フタのところにできた隙間から、飲食物が気管へ侵入してしまうことになり、誤嚥が発生することになるわけです。
要するに、誤嚥というトラブルは「のど仏周りの筋肉の衰えによっておこる」
ものなのです。
もちろん「反射の衰え」や「喉頭の知覚の低下」など、誤嚥を招く要因は他にもいろいろあるのですが、そのなかでも「のど仏の筋肉の衰え」はもっとも誤嚥を進ませやすい要因だと言って差し支えありません。
逆に言えば、喉の機能を低下させないためには「のど仏を上下させる筋肉」を衰えさせないことがカギ。
すなわち、のどの筋力をキープして「のど仏をスムーズに上下させる機能」「フタの開け閉めをスムーズに行う機能」をいかにキープしていくかが、わたしたちの嚥下機能を守る重要なカギとなるわけです。