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ご存じでしょうか?

誤嚥性肺炎の主治医力のなかで、飛野和則先生はこのように述べられています。
 忘れてはいけないのが、治療の目的です。肺炎があるから、炎症が強いから、感染を起こしているから、というのは、肺炎を治すことが善であるという価値観ののもとに(また肺炎は治るものであるという認識のもと)成り立つ理論です。
誤嚥性肺炎の場合、治し手もまた再発する覚悟が必要であり、治ってもQOLがさがることや、治らないことも少なくありません。このことが薄々わかっている状況でも、私たちはなぜまた治療をしようとするのでしょうか。
患者さんの病気を治してあげたくて、あるいは楽になってもらいたくて医療に携わっているのですから、当然の思いです。また、患者さんが医療を求めて病院にきたのだから、という考えもあるでしょう。
 では、誤嚥性肺炎に抗菌剤を投与すると、実際のところどのような効果が、示されているのでしようか。
重度な認知症のため米国の施設に入所している高齢者323人のデータを集めた研究では、肺炎の際に抗菌剤を投与することで、肺炎の死亡率は80%減少しました。一方で、抗菌薬投与や入院をした群では、QOLはむしろ低下したのです。抗菌薬投与により生命予後の改善はある程度期待できるものの症状緩和には寄与しない(むしろ悪化させかねない)ということです。
日常診療で、誤嚥性肺炎の患者さんが治療してもすぐに再発してしまい、制限の多い生活を余儀なくされていることを見ていると納得できるデータではないでしようか。
こうしたデータもあり、米国ではDNR(Do not resusciate:蘇生をしない)ならぬDNH(Do not hospitalaize:入院をしない)という意思表示が一般的になってきています。
肺炎などの感染症をきたしても、抗菌剤を投与しないか、あるいは内服や筋肉内注射の抗菌薬のみ使用し、施設や自宅で穏やかに過ごすという選択です。DNHを示した群では肺炎罹患時の死亡率は2.21倍に上昇するものの、QOLは保たれたというのです。
日本ではまだDNHという言葉こそ聞き慣れないものの、施設や自宅での看取りが増えてきている傾向はみられます。
また、2017年に改訂された成人肺炎診療ガイドラインでは、「肺炎を治療しない選択」が明記されたことが話題になりました。まだ、はっきりと基準が明記されたわけでなく、「本人の意思を尊重した治療を」という表現が印象的です。
どのような治療を望むか日頃から相談しておきましょう。