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私が尊敬する菊谷武(日本歯科大学リハビリテーション多摩クリニック院長)の記事が日本歯科医師会雑誌に記載されました。

「口腔バイオフィルム感染症」の保険導入とその意義。

はじめに

平成27年に開催された日本歯科医学界による「新病名に関する検討会」において「口腔機能低下症」、「口腔機能発達不全症」「生活習慣性歯周病」とともに、口腔バイオフィルム感染症が提案され、その妥当性について論議された。本年、令和4年度の診療報酬改定で「口腔バイオフィルム感染症」に係る検査などが保険導入された。そこで、本病名の意義について解説する。

高齢者の口腔環境について

要介護高齢者、入院患者、周術期、緩和期にある患者、障害を有する患者などにおいては、口腔の運動機能の低下や唾液分泌量の低下に伴って自浄作用の低下がみられる。さらには、口腔衛生自立度の低下不適切な口腔衛生管理もみられる。

こうしたことにより口腔内に著しい汚染が生じる。

汚染の原因は、食物残渣や口腔粘膜上皮の剥離、かくたんの口腔内停滞などであり、これらをもとに口腔内微生物を主体とする口腔バイオフィルムが形成される。口腔バイオフィルムにより歯科疾患、口腔粘膜疾患、誤嚥性肺炎などを引き起こし、これらは生命予後の悪化や生活の質(QOL)の低下にも関連する。この口腔バイオフィルム感染症の発症予防、重症化予防には、個々の患者の生活環境や全身状態を見据えて口腔環境状態を適切に管理する必要があるのはいうまでもない。

口腔バイオフィルム感染症とこれまでの問題点

口腔内の汚染の原因の一つは、口腔内細菌の著しい増加であるが、これまでの細菌の量の測定を客観的かつ迅速に測定することができなかった。さらに、従来の歯科医療においては、口腔バイオフィルムの増加の結果として生じる歯周病の重症度を歯周組織検査などを通じてその存在を客観視しスケーリングや機械的に歯面や歯肉粘膜の清掃を行うことで、口腔衛生管理を行ってきた。しかし、歯周組織検査を基本とする場合、無歯顎患者もいる一方で患者のステージにおいては、歯周組織検査が行うことが出来ない患者や検査そのものが意味をなさない場合もあり、汚染状況の診断のためには、直接的に口腔内細菌量を測定することが望まれてきた。一部抜粋。